会計士試験合格者の需給ギャップ

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昨年のノーベル経済学賞は、「なぜ求人が十分にある場合でも多くの人が失業するのか」(ジョブ・サーチ理論)について研究した3氏に贈られた。

ジョブ・サーチ論は合理的選択理論の一種である。

求職者は、仕事が見つかったときにそこに就職するかどうかを決めなければならないが、そこに就職することでえられるベネフィットと、仕事探しを継続するコストと期待されるベネフィットを比較考量し、期待利得の高いほうを選択すると考える。

求職者が受け入れるであろう最も低い賃金が「留保賃金」といい、求職者者は、提供された賃金が留保賃金より安ければ拒絶し、高ければ受け入れるという行動をとる。

求人が少なければ、留保賃金以上の仕事が見つかった時点ですぐに就職を決めるだろうし、求人が潤沢にあれば、賃金などの労働条件の分布を考慮して、ベストと思われる仕事をじっくり選ぶ。

もし、考えられた条件が満たされなければ、時間の経過とともに「留保賃金」は変わる可能性がある。例えば、失業者の技能が衰える一方でなかなか職業にありつけないという状況下では、失業の期間が長ければ長いほど、受け入れる職場環境の基準は下がる。こういった場合には、失業者の留保賃金は時間の経過とともに下がる。

 

公認会計士試験合格者の未就職問題は、実務要件という大きな条件が足かせとなり、「留保賃金」が高い状況が続いている。しかし、需給ギャップの問題は、それだけに限ったことではない。

TAC株式会社 (1)未就職者問題の解決に向けての意見 (2)未就職者問題の解決のための私見(PDF:743K)

合格者を一般企業が採用にいたらない原因

(1) 実務経験(従事)要件を具備した仕事が得られない。

合格者:
・会計士として登録できるように要件が整った仕事がしたい。
・勉強してきたことを役立てたい。
企業側:
・社員としての成長を望むので、必ずしも要件を整えることを約束できない。
・職種を選べない場合には就職は不可能である。
・連結や原価計算知識を見込まれて一般企業へ就職できたケースもあるが、評価して頂ける企業数は限られている。

(2) 実務補習所への通学が難しい。

合格者:
・平日夜講義の通学や泊り込み研修への参加を認めて欲しい。
企業側:
・1社員として働いて欲しいので特別扱いは難しい。
・業務に支障がなければかまわないが、現実的には午後6時からの補習所に行かせる約束は難しい。
・補習所に通わせられる地区に勤務させるという特別扱いは難しい。
・社会人合格者は増加(H21:101人、H17:16人)しているが、この実務補習所の要件がネックとなり、せっかく試験に合格しても公認会計士の資格取得ができない。

(3) 監査法人の初任給が一般企業より高い。

合格者:
監査法人同等が希望。年齢的な相場は300万円台だが、合格者は合格しただけで監査法人と同等(500万円弱)を希望できるものだと思い込んでいる者が多い。
監査法人の初任給の変動に制約を加える。
企業側:
少額の資格手当てがある場合があるがプレミアムはない。
長年勤務した場合には、年収が逆転するケースもある。

(4)年齢制限が設けられている。

合格者:
・年齢制限はなくして欲しい。
企業側:
・新卒採用が中心なので若い方が望ましい。
・人数バランスを考慮して採用しており、社内研修・異動等の経験を積ませるためには年齢制限をつけざるを得ない。
・少なくとも26歳~30歳は2~3年の社会人経験がなければ厳しい。

(5) 就活・採用時期が合わない。

合格者:
・合格発表直後を希望する。
・就職活動をしたことがないので、どうしたらいいのか分からない。
・通常の就職活動は、大学3年の秋から準備して半年程度を要している。大学3年以下で合格しなければ、このスケジュールには間に合わない。
企業側:
・第2新卒等の仕組みに取り組んでいるが、応募者に合わせるものではない。
・一般リクルートと同等が当然。
・毎年合格者を採用できるか不明である。

(6)資格維持費(補習所費用、登録料、年会費)の負担が重い。

合格者:
・監査法人と同様に、企業側負担してもらいたい。
・就職できれば払えるが、未就職ではこれ以上親に借金し難い。
企業側:
・監査証明業務を望む訳ではないので,そこまで特別扱いは難しい。

(7)実務経験がある会計士が欲しい

合格者:
企業側:
・経験ある会計士であれば評価できるが未経験者は難しい。
・合格者は資格取得しているので簡単に辞めてしまうことが心配である。
・合格していない人の方が、帰属意識を持ちやすいのでこちらの方がありがたい。
・自分で基準等を調べるための勉強をしてきているので、問題点を解決する能力を高く評価している。

 

実務要件を満たせる場がないという点に関して言えば、キャパがあるものであるから、受験者にとって完全なる外的要因となってしまう。しかし、それ以外の需給ギャップについては、就職活動を安易に回避し、長期にわたる勉強に対する計画性/リスク認識の甘さもうかがえる。

就職活動においては、自分という商品を売り込む必要がある。その商品価値がどう高まるのか、社会に出てからの市場価値を高めるのにどう役立つのか、事前の検討がなされていたのかが問題となるのである。酷ではあるが、「手に職を」や「将来CFが増える」という理由で、本質的な目標が見えないまま公認会計士試験受験を決めてしまった人は、自業自得と言わざるを得ない。

 

ちなみに、待遇面で監査法人の方が有利という点については、監査法人におけるスタッフ段階での待遇を一般企業並みにすることで、肩書がほしいだけの無価値な人に撤退を促し、一般企業へ就職することのインセンティブを付けることが必要である。

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